「慶応幼稚舎の入試問題のホントの問題」のホントの問題

元ネタの元ネタ

某幼稚舎の入学試験問題で解答時間制限が5分だというので、僕は落第です(笑)。でも考え抜いて30分で正解を出しました。いかに大人は頭が固くなってしまっているのか。問題はこうです。4人の男の子が図のように部屋の中に隔離されています。この4人にはあらかじめ次のことを知らされています。部屋に入っているのは全部で4人であること。黒いキャップを被っている人は2人、白いキャップを被っているのが2人。そして自分が何色のキャップを被っているかは知らされておらず、自分で自分の頭のキャップを手にして見るのは駄目。またA君とB、C、D君との間は壁で仕切られて相手が見えない。全員後ろを振り向いて見ることも絶対だめ。さて、ここまでの条件をこの4人に話した上で、自分が何色のキャップを被っているかわかった人は声を出して答えてください、と部屋の外から先生が問いかけるのです。ここからが問題です。しばらくの沈黙があった後、自分のキャップの色を当てた少年がいます。それはA、B、C、D4人のうち誰で、その理由はなぜという問題です。トンチでもなぞなぞでもありません。

「某幼稚舎」で本当にこんな問題が出たのかは置いておく。少なくとも、「そういう設定」ではある。

で、これに対する反応↓が面白かったので、さらにその反応として書いたのが、本エントリである。
慶応幼稚舎の入試問題のホントの問題 - quipped(元では「某幼稚舎」としか書いていないが、この方は慶応幼稚舎としてしまっている。「物産」=三井物産みたいなものなのかな)

死刑囚と帽子と自由

元ネタは、いわゆる「死刑囚(囚人)の帽子」問題だ。"死刑囚or囚人""帽子"でgoogle検索すれば、さまざまなバリエーションが引っかかるし、この問題の元となっているものも出てくる。
で、なぜこれが「死刑囚」「囚人」という設定かというと、「死にたくない、自由になりたい」という、基本的にほぼ全員の回答者が持っているであろう欲求に訴えかけるためだ。
ついでにいうと、ご丁寧に「間違えたら即射殺」「当てずっぽうと分かれば(説明できなければ)即死刑」といった設定をつける場合もあるし、

三人とも死刑囚で、どのみち死刑ですから、一か八か逃げ出すのと言うのはダメですよ。(^_-)
http://www.geocities.jp/suri_puzzle/ronnri_06.htm

と出題者が禁止事項を直接言う場合もある。
いずれにせよ、絶対に死にたくないから、確実に自由になりたいから、必死で頭を回転させる。そういう意味で、論理的思考で解決すべきことが明示されているといえる。

受験生と帽子と合格

では、冒頭の問題の設定はどうか。
私も最初「幼稚園児未満の子どもへの問題に、死刑囚だの囚人だのって設定も物騒だけど、どうやって同じ条件をつけるのかな」などと思ったのだが、よく考えてみれば心配は全くの無用だった。最初も最初に「某幼稚舎の入学試験問題」と明記しているからだ。
いわば、某幼稚舎の受験生(and/or受験生の親など)全員が持つであろう、「入学したい(できれば確実に)」という(もしかしたら、死刑を逃れることよりも切実な)欲求に訴えているのだから、「合格したいならきちんと考えろ」と論理的思考を求めているのは明白だ。現実世界では、とか、当てずっぽうでも、とか、確率論なら…などとああだこうだ言って悦に入っているのはアホウである。

また、

先の解答には色々と問題がある。まず仮定されているのは、「自分の帽子の色がわかった人が必ずしも発言する」ということだ。

もう一つ仮定されているのは、「自分の帽子の色が確信できた人しか発言しない」ということだ。

そもそも問題文のどこにも「確信できなきゃ発言してはいけない」とは書いていない。

などと書いているけれど、実はある意味、原文にきちんと明示されている。
それは

自分が何色のキャップを被っているかわかった人は声を出して答えてください、と部屋の外から先生が問いかけるのです。

という一文だ。

思い返してほしい。これは「某幼稚舎」の入試問題という設定だ。選ぶ幼稚舎側にしてみれば、
「問題文の男の子だって、先生の言うことなんて聞かないだろ」
「『確信できなきゃ発言してはいけない』なんて書いてないもん」
「先生の言うことを素直に聞く子どもばかりって、そんな現実あるわけないでしょ(笑)」
とうそぶく聞き分けのない子どもよりは、先生の「自分が何色のキャップを被っているかわかった人は声を出して答えてください」という言葉に従って考える子どもを合格させたいだろうことは、まあ蓋然性が高いと思う。
ましてや、戸塚ヨット幼稚舎」ならともかくこの方は勇み足で「慶應幼稚舎」と考えているのだから、なおさらではないだろうか。

後は、

こんなにも多くの人間が、与えられた問題の意図を鵜呑みにすることだ。

仕事をしている人なら誰でもわかるだろうが、テーマがきっちり決まった仕事なんてのはない。

も、

何が仮定されていて、何が実証されているのか。何がゴールで、どうやった解決法が考えられるのか。それを考えてこそプロフェッショナルじゃなかろうか。

も、いやこれ「幼稚舎の入試問題」って設定ですから、の一言で済むんじゃなかろうか。
この問題を突きつけられているのは、世知辛く殺伐とした現実世界の大人ではなく、幼稚舎合格を目指す子どもだ。子どもに成り代わり、子どものつもりで解答せずに、何の意味があるのか。

ただし

「幼稚舎の入試問題だから論理的思考による解が求められている」と思い込むことが、頭がカタイというなら話は分かる。
「合格して入舎(という表記でいいの?)する」という目的でいうならば、
「果たしてこれから幼稚園に入ろうという子に対し、ここまでの論理的思考で解を出すことを求めるだろうか?」
という疑問はあっていい。

もしかしたら、この某幼稚舎側は「この年齢でここまで頭の回る子は気味が悪い」と考えて不合格にするかもしれない。
求めている子ども像が、実は「現時点では正解を導けなくても、粘り強く考えることができ、しかも先生の言うことをよく聞く子」ならば、
「5分間一生懸命考えたけれど、分かりませんでした」
と答えた子が合格になるかもしれない。

大元の方は「解答時間制限が5分だというので、僕は落第です(笑)。でも考え抜いて30分で正解を出しました」と報告されているが、仮に幼稚舎が「制限時間を無視してでも、納得いくまで正解を求め続ける子」を入舎させたいのであれば、合格するだろう。

もちろん、その意味でいえば、
「50%または67%の確率に賭けて、当てずっぽうで解答できる勇気を持つ子」とか
「世の中の悪意をもとに思考ができる子」
を某幼稚舎は求める可能性もある。
しかし、元エントリは、そういう発想でごたくを並べたのじゃないでしょう?
単に「某幼稚舎の入学試験問題」という設定をすっ飛ばしただけなのだから。

結論

こんな人に仕事を依頼すると、大前提を無視した、とんでもないものが上がってくるから気をつけようぜ、というこった。
社内ネットワークの構築を依頼したら、2年後ぐらいに竹藪へ連れてかれて「見てください!この地下に耐震性抜群の堅固なネットワークを構築できました!!」とか。弾んだ声で。満面の笑顔で。

おわりに

2年で本当に竹藪ができるものなのかどうか、素直な受験生の皆さん教えてください。