経験と想像力

はじめに

某お店の宅配おせちがえらいことになっている、と。
まあ、上がっている画像を見ると酷いっていえば酷いし、ついでにグルーポンへの潜在的な不信感もそれに拍車を掛けたのか、ごく一部で話題になっていて。

…だけど、では、どうしてああなったんだろうか、と。

そのことについてはhttp://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/20110102/1293909242で、経営とか組織とか計画とかリーダーとか、そんな視点から考察が入っていて面白いのだけれど。
僕は「どうしてああなった」かについて、別の思いがあるので、メモ代わりにちょこっと書いてみる。

先に言っておくと、当該のお店を非難するとか、そういう意図はまったくない。ただ、事象について、自分の視点から整理してみたかっただけである。

運搬を人に任せ、時間がかかるということ

http://matsea.blog136.fc2.com/blog-entry-350.htmlの中に、こんな画像があって。
これを見ると、確かに盛りとしていまいちかもしれないけれど、そこまで酷いものじゃない。
このままならば、ああ、こんなものかと納得する人も多いんじゃないだろうか。
このままなら。

で、
実際に届いたらこんなことに。
…当たり前だ。
だって、仕切りカップをまったく使っていないのだもの。最初に画像を見て驚いたよ。そりゃ、仕切りがなければ、どれだけ気をつけて運ぼうが何しようが、途中でぐちゃぐちゃに混ぜ合わさるのは当然だ。
インゲンが上に載っかったまま届くわけがないし、黒豆は鹿のフンよろしくコロコロ転がり隣の栗きんとんと絡まって何ともアレなビジュアルになることも予想できる。
ましてや、食材から出てくる水分や脂分や酢酸分を受け止め保持することができないのだから、そりゃ、食材が異臭を放ち始めるのも、むべなるかな、だ。せめてご飯が入っていれば、そういった汁っ気を密かに吸い取ってしまうことも可能なんだけど、しめさばの棒寿司2切れでは…。
そして、食材が詰め込まれていないから、移動し放題だ。どうしようもない。エビの本数などは(入れ忘れを除いて)合っているようだから、栗きんとんとか黒豆とか、そういうものの調達量は見積もりを間違えたんじゃないかな。

─でも、ネット上に出ている商品画像はスカスカで貧相なものですよね?

水口氏
本来重箱の仕切りは9つになる予定でした。
しかしその仕切り等の準備が出来ず4つの仕切りに急遽変更した事が考えられます。

─では、4つの仕切りの重箱の中身を9つの仕切りの重箱に盛り付け直せば本来の商品と同じ分量なのですか?

水口氏
実際は、予約時掲載の写真より少々少なくなってしまったと思います。
申し訳ありません。
http://net.2chblog.jp/archives/1503176.html

このあたりからも、9つの仕切りが確保できなかったとかそういう以前に、「お弁当は、ちょっとすき間があると想像もつかないぐらいに移動してしっちゃかめっちゃかになる」というセオリーを知らなかったか、忘れていたんだろうことがうかがえる。「少々少なくなってしまった」ら、転がるもの。すっ飛んでいくもの。食材が。
そもそも、元々の画像を見ても、微妙に動きそうなすき間があって、もし9つの仕切りの箱が確保でき、食材の量がそろっていても、やっぱり手元には微妙なおせちが届いていたんじゃないかな、と。仕切りカップも(特にVEGETABLEのところが)少ないし。

とはいえ、これでも実店舗内で出すとか、運ぶにしても、作ってすぐに、近所の顧客へ自ら持って行くというのであれば、まだ問題は少なかったのかもしれないけれど。

4人分、または2〜4人前ということ

もう一つ、何だこりゃ?と思ったのが、タイトルで
グルーポン(GROUPON) - 50%OFF【10,500円】2011年迎春≪横浜の人気レストラン厳選食材を使ったお節33品・3段・7寸(4人分)配送料込≫12月31日着
「4人分」と書き、説明文では

●サイズ:7寸(21cm×21cm)・三段 2〜4人向け

「2〜4人向け」と書いておきながら、例えばカニのツメや手羽中が2本だったり、エビが3匹、スモークサーモンが3切れだったりしたことだ。
エビ3匹を、どうやって4人で分割したらいいのだろうか?サーモンは?手羽中は半分ずつ食べることでお互いの仲が深まることを期待したのだろうか?いやいや。
これは、食材が調達できなかったとか、そういうことではない。元々の画像からしてそうであり、実際のおせちにも、見栄えはともかく、元と同じ数が入っているからだ。

確かに、例えば居酒屋などでは、人数分より少ないものをシェアしようとすると(3人で一人前とか5人で二人前とか)、物によっては分けるのに困ることがある。ただ、そういったものがいくつか並び、これは食べたいこれは譲るよなどと相談しながら(あるいはこそっと持っていったりして)、皆がお腹いっぱいになったところで、結果として3人前分とか5人前分食べたのだろう、ということになるから、問題ないし、それを客側も承知している。

つまり言い換えると、このおせちの「4人分」「2〜4人向け」は、当該実店舗の論理の延長であり、「宅配おせち」の考え方ではなかったということが透けて見える。

おせち詰め合わせ工程の写真について

姉妹店ブログでアップされたおせちの製造現場の写真が汚いってのも騒動を広げる要因だったけど、あれはなぜ消したのだろう。姉妹店の店長なりスタッフなりが消してしまったのだろうか。残した上で謝罪していた方が…とは僕個人の思い。
エプロンもつけず、普段着で調理したりするのは、そこらへんの定食屋とかなら(ほかにも?)よくあることだけど、あれが許されるのは、その場で消費されから。ああいう写真をうっかり載せてしまうあたりも、意識は宅配ではなく、通常の調理の延長だったんだろうな、と。

3つの事象から

当該のお店は、「○人前分のおせちを、お店で出すのではなく、宅配する、または宅配業者に任せる」ということについて、経験がなく、想像力を働かせることもできなかったのだろう。予行演習としていったん見本を作成し、宅配業者に預けてみれば、どのように届くかが理解できたのかもしれず、今回のような騒動にはならなかったのかもしれない。あるいは実際に、9つの仕切りの弁当箱では試したのかもしれない。
しかし、実際に手に入ったのは4つの仕切りであった。予約を延長したこと、注文数が想定以上に膨らんだことなどから、今回の事態になってしまったのだろうか。
「経験は最良の教師である。ただし授業料が高すぎる」という警句の通り、今回の失敗経験は高い授業料となったのかもしれない。

その後の対応について

とはいえ、どれだけ高い授業料だとしても、その経験を授業料以上に生かすことができるならば、決して無駄にはならない。
(おせちを期待した方には、たまったものではないが)

その点、どうか。
当該店舗のオーナーはすぐに謝罪の意と返金への対応を表明し、
お詫びのお知らせ
ネット媒体の取材申し込みに、すぐに応対し、
http://net.2chblog.jp/archives/1503176.html
読者からの質問があれば答えるともいう*1
http://net.2chblog.jp/archives/1503433.html

これは、もし僕が同じ立場に置かれたら…と考えた場合、ここまでの対応ができるかどうか、正直自信がない。
特に、(サイト運営者には誠に申し訳ないが)自分がまったく知らない(僕はこのサイトを今回の記事で初めて知った)ネット媒体から電話*2取材を申し込まれたとしたら、果たして回答しただろうか*3。自分の発言をどうねじ曲げられるか分かったものではない、と拒否していたのではないだろうか。実際、最初のタイトルは酷いものだったし*4

予想しても詮のないこと

 でも飲食だったらどうなんだろう。コンビニも競争が激化してーとかいわれる昨今ですけど、でも飲食にくらべたらぬるいもんですよ。だって、飲食には「やっぱ金もったいないから家で食う」っていう最大の強敵がいるじゃないですか。それに、繁華街にある店なんかだったら、周囲は全部競合みたいなもんですよね。そういう状況において、一見些細に思えるネット上の悪評がどう影響するかっていうのは、ちょっと読みきれない。信用商売であるってことも考慮に入れると、ちょっとやばいかも、と思う。

 上の俺の例でいいますと、これ、テレビで紹介されちゃったらアウトだと思いますね。信頼を回復するまでえっらい時間かかると思う。そのあいだ持ちこたえられるかどうかは極めて微妙。そんで、この社長、テレビに出てるらしいですね。その影響力のすさまじさをもし肌で知ってるんだとしたら、ネット上での通販なんて「やっちまえ」の一言でこういうおせちを押し通してしまう可能性はあるかもしれません。たたき上げの人ほど、かえってそういう思考になるかもしれない。にしても、そもそも届いてないっていうオチがあるんだけども……。
http://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/20110102/1293909242

ひとまず、今の会社がアウトになってしまうかどうかは、それまでの銀行とのお付き合いがどの程度かによってしまうのかな、とも。身も蓋もないけれど。銀行が支えてくれたら、日銭商売だし、何とでもなりそう。

そのへんの信頼関係とかの仕組みは正直僕には分からないけれど、

社長自身のブログを数ページ遡って読んでみたんですけど、ずいぶんと既存店の前年比にこだわってる。てゆうことは、いいわいいわで新店出してバブル的な拡大してきた人じゃないんですよ。前年比を意識するってことは「店が存続しつづけること」を意識するってことです。作って潰しゃいいよって判断じゃないってことです。俺は金のことあんまり詳しくないんで想像なんですけど、飲食なんかだと、たぶんぱっと話題になるような業態の店を華々しく開いて、投資した分を回収したら勢いのあるうちに撤収、っていうやりかたあるはずなんですよね。つーか飲食業の荒利率ってコンビニやってる俺から見るとそれ自体が詐欺レベルで高えし。かわりに人件費えっらい食うらしいけど。コンビニみたいなベタな日常を相手にしてる商売と違って「目新しさ」っていうのは重要だし、それだけに飽きられる確率も高いから。前年比重視っていうのは、そういう考えじゃなくて、持続を意志してるってことです。

 ましてやそのブログでは「うまく行ってるときにこの先、次の一手を着々と進めるのが先行管理です。」って自分で言ってる。いや、言ってるだけって可能性はありますけど、言ってるだけにしろ、考えかたが理解できないと自分の言葉ではいえないですよ。ましてやこの言葉は、俺の実感とすごく合致してます。売上が好調なときこそ「こうすればもっとよくなるぜ」っていうかたちで改善がやりやすい。落ち込んできたときにがんばったって、現場は考えかたがネガティブな方向に向かいますんで、監督する側の空回りに終わる可能性が極めて高い。
http://d.hatena.ne.jp/nakamurabashi/20110102/1293909242

っていうあたりとか、そんな無茶をしなさそうで、銀行からの心証も悪くなさそう。ならば持ちこたえるんじゃないかな。
あんまり倒産だどうだってのも、何か寂しいしさ。

で、このオーナーは、何だかんだで中期的には、この授業料に見合うだけのことを今後に生かしていける人じゃないか、と思う。それに、実店舗があるということは、今この瞬間は(一部で評判を落とすことによる影響から)固定費へのダメージを増幅させるけれど、中期的には「お客さまと直に接し、直の声を聞き、信頼を回復する」という意味でネットだけのお店よりも有利ではないかな。

結論

当該のおせちを注文した方のショックが和らぎますように。せっかくのお正月だしね。

だがチーズ、お前はダメだ

…ホント、何だろう、アレは。アレだけは用意した意味がさっぱり分からない。包装紙を取る手間(で、時間切れになること)を考えたら、普通に大きなチーズ買ってきてカットした方が早いだろうになあ。

*1:現状、実際に答えるかは分からない

*2:間違っていたら失礼。読んだときは電話取材だと思ったけれど、これを書くにあたり斜め読みしてみたら、電話との表記が見つからなかった

*3:もちろん、当該店舗のオーナーはこのサイトを周知していたかもしれないが

*4:間違っていなければ「グルーポン残飯おせちの外食文化研究所水口社長にインタビューしてみました」というもの、のはず。残飯じゃねえ