北原みのりさんの焦りは、多分僕には分からない

夏ですなあ

朝、コンビニの雑誌棚を見るともなしに眺めていたら、an・anの表紙に「セックス」の文字が躍っていて、ああ、そういう時期なのか、とうにマンネリ化しているっぽいけど、売れるのかなあ、などと、漠然と考えていたところ、下のようなエントリを見つけた。
» アンアンのセックス特集

以下、ちょっと引用。

ショックでした。
だって・・・楽しみにしていた「女性向けDVD」が、想像以上にというか、想像を超えた・・・駄作だったので。

北原さんがどんな想像をされていたのか、ちょっと知りたい気もするが、ひとまずは駄作と判断したらしく、ショックを受けていらっしゃる。なんかニコニコしてしまうなあ。たかが雑誌付録のDVDでこんなにショックを受ける読者がいるなんて。それは雑誌にとっても読者にとっても幸せなことだ。

それはともかく、北原さんは内容についていくつかの苦言を呈されている。

「彼のプライドを傷つけないように」
とか
「あまり積極的になるとひかれるので注意しましょう」
とか、しつこいくらいにナレーションが入る!!!
男に遠慮してさ、なにもわからないフリしてさ、男の沽券傷つけないように下手に出てさ、サービスするセックスなんて、やめるべきなんじゃないの? そうやって、がんじがらめに「男からみた、怖がられない程度の、愛される女子」みたいなことを目指す窮屈さから、解放されていいんじゃないの?
一番最初に出たアンアンのセックス特集って、まだ女性側の欲望に忠実だった気がする。

僕は一番最初のセックス特集がいつごろ組まれたのかも、内容がどんなのだったかも知らない。なので的はずれな考察になってしまうかもしれないが、もしかしたら当時は
「恋愛とか結婚とか、そういった枠やしがらみから外れて、セックス自体を積極的に楽しんでみてもいいのでは?」
といった提言を、一般女性誌を通して主張することが、それなりに新しかったから特集たり得ただけなんじゃないだろうか。

一方、今は「婚活」などといった言葉がにわかに注目を集めている。この前は、確か電車内の広告で「恋活」なんていう言葉もみかけた。恐らく、セックス特集の編集会議でも「婚活」はキーワードの一つとして挙がっただろうことは、想像に難くない。
当たり前だが、結婚はお互いの同意、この場合で言えば、読者にとって結婚対象となる年齢層のオトコ(20〜35歳ぐらい?)から気にいられることが必要だ。
すると、セックス特集も、必然として「オトコから気に入られる」という視点が強く出てくるだろう。
僕には、ベッドの上で積極的な女性が、チンコを触る女性が、そのくせフェラチオはしないという女性が、20〜35歳の未婚男性オトコからどの程度引かれるのか、あるいは引かれないのか、全く想像がつかない。ただ、結果として、「(編集者やライターの頭の中で想像する)オトコの多数が気に入るであろうセックス(はきっとこんな感じ!)」という妄想が特集として世に出ただけであり、

日本のセックス、女を巡る状況って、何十年前ともしかしたら変わらないのかな。

ということとは別物だと思うんだ。

繰り返すけど、たかが一雑誌の一特集だよ。ひどい言い方をすれば、売らんがためにテーマと内容を選んでいるだけだよ。そんなのにマジになってどうするのさ。

(そんなこと言って)ええのか?ええのんか?

そして僕が特に引っかかったのは、この部分だ。

男に遠慮してさ、なにもわからないフリしてさ、男の沽券傷つけないように下手に出てさ、サービスするセックスなんて、やめるべきなんじゃないの?

何だろう、この違和感。
違和感の一つは「男の沽券」という単語だ。
僕の周りでは、と断りを入れておくが、今、僕の周りにいる、同世代あるいはその下の男性たちの中では、男の沽券とやらを振りかざしたり振り回したりしているのを見たことがない。あるいは同性の鈍感さゆえに、気付いていないだけなのかもしれないが…。
なるほど、確かに僕が子供のころは、家に来て酒飲んで酔っぱらったおっさんたちがよく「男とは!」とか「男として…!」みたいなことを言っていた覚えがあるし、そういったメンタリティを持つ男性は今でもいることだろう。
ただ、その割合って、結婚対象となるような20〜35歳の男性というカテゴリでいえば、減っていると思うんだ。あくまで、上に書いたような、僕の経験から想像しているだけなんだけど。
それに、だって、ねえ? 時代は草食男子(笑)なんでしょう?

なんか、「男の沽券」なんてレッテル貼って攻撃するっていうのが、ズレているというか、ステロタイプな印象なんだ*1

もう一つの違和感は、「サービスするセックスなんて、やめるべきなんじゃないの?」という言葉だ。
一歩譲って、「セックスについてなにもわからない(フリした)女性」を、多数の男性が支持している、あるいは、実際にセックスしようと思う男性が、そういう趣味嗜好であるとしよう。
で、その男性に合わせて演技することって、何か悪いことなのだろうか? だって、セックスって、相互作用でしょう? パートナーを愛し、パートナーの望むことをしてあげようっていう思いがあるから、セックスって成り立つんじゃないだろうか。自分勝手に気持ち良くなりたいだけなら、オナニーでもしていればいいのに。

それに、この言葉を男女逆にしたら、めちゃくちゃ叩かれると思うんだ。たとえばこんな感じ。

「女に遠慮してさ、女のプライド傷つけないように下手に出てさ、サービスするセックスなんて、やめるべきなんじゃないの?」

いいんですか?北原さん。僕はとてもじゃないけど、逆の立場ならこんなこと、怖くて書けないです><

おわりに

何度も繰り返すけれど、たかが一雑誌の、売らんがために制作された特集の付録DVDに、なぜ北原さんが「日本のセックス、女を巡る状況って、何十年前ともしかしたら変わらないのかな」とまで焦っているかが分からない。読者は馬鹿じゃない。セックス特集なんて単なるネタとして消費されるだけである。

ただ一方で、北原さんの焦りと、僕みたいに鈍感な人間が「さっぱり分からない」と思ってしまうこの温度差こそが、ジェンダーに関連して何かを主張する際の推進力なんだろうなあ、とも想像する今日このごろなのでした。

*1:もちろん、草食男子という単語に対する皮肉も含めて