地方で車を持つことのコストについて

自動車の隠れたコスト:アーバン・ダイアリー:So-netブログという記事を読んだ。

都会の幹線道路は休日の方が混んでいるのでは、という仮説から、都会のサンデードライバーが、1回車を走らせるためにどれだけのコストを支払っているかを計算し、都会で車を維持することの難しさ、あるいは趣味性を考察している。

それはそれでいいのだが、最後の段落で意味が分からなくなる。

まあベンツが買える人は余裕があるからいいだろうが、200万円の自動車を購入できない人は自動車しか交通手段がないような状況だと本当に大変である。今後、ガソリン価格が徐々に上がっていくと考えると、本当に自動車依存の社会状況から脱却することが必要となるであろう。地方は一生懸命、道路整備に励んでいるが、道路整備に励み、公共交通を圧迫し、そのサービスを劣化もしくは喪失した時、東京をはじめとする大都市との豊かさの差が真に大きくなることを知るであろう。知った後では遅いのであるが、その点をしっかりと認識するといいと思われる。私は所詮、東京に住んでいるので、他人事であるのだが、地方が衰退すると、日本という国の多様性が失われ、それは国益を大きく損ねるので、個人ベースはともかく、一日本人として非常に危惧しているところがあるのだ。

自動車がいかに高い乗り物であるかを、もっと人々は認識すべきであろう。高速無料化を議論する前に、この点をしっかりと認識することが必要であると思われるのである。

前段落までは都会の車の話をしていたのに、ここでいきなり、都会の数値を元に、地方における自動車依存型の生活まで言及し始めるのだ。…いや待ってくれ。地方で交通インフラが脆弱だとするならば、都会の通勤において定期券が必需品であるのと同じく、自動車は地方の必需品であり、「自動車を購入できない人は自動車しか交通手段がないような状況だと本当に大変である」といわれても、優先して購入するのだから大きなお世話である。そもそも、必需品なのだから、都会のサンデードライバーとは乗る回数が違い、必然的に1回乗車当たりのコストは下がる。この数字を出さずに「自動車がいかに高い乗り物であるかを、もっと人々は認識すべきであろう」も何もないだろう。

しかし、ならば地方の生活において、自動車による移動コストはどれくらいかかっているのだろうか。気になったので計算してみた。

費用について

車体価格とモデル車の決定

まず自動車の車体価格。
> 自動車がいくらであるか、新車を買った経験がない私はよく分からないが、なんとなく200万円くらいであるかと思うので、ここでは200万円とする。
とあるので、200万円というのを各種装備・諸費用込みの乗り出し価格と考えると、ホンダ・フィットの1.5Lあたりがちょうどよさそうだ。日常の足としても申し分ないだろう。
実際、Honda|クルマ|セルフ見積りで、フィット グレードX 1.5L SOHC i-VTEC(L15A) 2WD CVTに、純正カーナビをつけると、車両本体が消費税込み1,802,500円、諸費用込みで約196万円となったので、値引き分やローンの利息なども加減し、込み込みで200万円といったところに落ち着くのではないだろうか。
そこで、以下はフィットの1.5Lクラスをモデルとして考えてみる。

自動車の使用年数

自動車の使用年数については、元記事に
> 自動車の平均使用年数だが、これは2009年では11.7年
とあるから、ここでは11年としてみる。

車検・点検費用

次は車検費用。新車で購入した場合、最初は3年後、以降は2年おきに車検を通すことになるから、11年だと4回車検を通し、5回目の車検時に売却する計算となる。車検時に整備も行うとして、車歴が若ければメンテ費用も安く、だんだん高くなっていくだろう。4回の平均を10万円とすれば、4回で40万円である。

このほか、義務ではないが車検のない年でも12ヵ月ごとの点検が推奨されている。この費用を1回15,000円とすると、11年の間では1、2、4、6、8、10年目に行うので、9万円となる。

自動車税

自動車税は、1.5Lクラスなら年34,500円なので、×10で34万5,000円(最初の1年分は乗り出し価格に含まれている)。

自動車保険

自動車保険料は、http://www.jidoshahokendirect.com/blogn250/index.php?e=68を参考としてみる。事故を起こさないことが前提だが、保険料は年ごとに安くなるので、車両保険込みでも年平均5万円を見積もればよさそう。すると11年では55万円となる。

ガソリン代

ガソリン代については、平均走行距離と燃費を見積もって推測してみる。

まず平均総距離だが、http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/hakusho/h20/html/j1211100.htmlを見ると、自家用車の平均走行距離はおおむね年5,000kmである。この数字を使ってもいいけれど、日常の足として使う地方は都会のユーザーよりも走行距離は増えると考えて、年7,000kmで計算する。

一方、燃費は、http://www.carview.co.jp/userreport/HONDA/FIT/のユーザーレポートでは14.83kmとなっている。ただしこの数字には1.3Lのクラスも含まれている上、燃費自体はユーザーの「見栄」や「思い込み」によって少々良い方向に修正して報告している可能性もあるので、ここでは約1km/Lマイナスして、13.86km/Lとしてみる。

すると、11年間のガソリン代は、現状のレギュラーガソリン料金からリッター135円として、7,000km/年×11年÷13.86km/L×135円/L=75万円と計算できる。

高速道路代

高速道路代は、http://www.stat.go.jp/data/topics/topi37.htmによると1世帯1年間当たり8,923円となっている(ちなみに、都市部も含めた1世帯当たりの車保有台数は全国平均で1.086台*1)。北陸地方で支出が多く、北海道・沖縄・東北では少ないが、ここでは1台当たり年1万円と考える。すると、11年間で11万円と見積もられる。

オイル代

オイル交換は4ヵ月に一度とする。11年で33回だが、12ヵ月点検や車検時に無料でオイルを交換してくれるところも多く*2、最後に手放す際もオイル交換は不要なので、実質22回となる。工賃込みで1回4,000円とすれば、22回では88,000円である。

タイヤ代

3万km程度を寿命とすると、7,000km/年×4年で28,000kmだから、満4年と満8年の計2回交換すればよさそうだ。フィット1.5Lの標準タイヤは175/65R15のようなので、ブリヂストンPlayzあたりを履くとして、http://kakaku.com/item/K0000009300/からやや高めに見積もって、工賃込みで1本12,500円。1回4本で2回交換だから、総計は10万円である。

駐車場代

地方では、自宅はもちろん賃貸でも最初から1台分の駐車場込みで出しているところが多く、また、出先の駐車場もほとんどが無料なので、ここではあえて無視し、次の「その他」に含めることにする。

その他

洗車用具・シャンプー・ワックス代や、芳香剤代、アクセサリー代、交通違反が見つかった場合の反則金代、その他もろもろでかかる費用を16万7,000円程度見込んでおく。

11年間の総費用

以上を合計すると、11年間にかかる総費用は460万円となる。

言うまでもなく

本当に「足」と割り切って軽自動車を維持するのなら、計算はしないが総費用はもっと安くなる。

利用頻度と単価について

さて、ここまでくれば、後はどれくらいの頻度で利用するかである。

地方では、自動車はまさに「足」であり、ちょっとした買い物やら通勤やら送り迎えやら何やらで、とにかく使いまくる。もちろんレジャーにも使う。それこそ1年365日使うとしてもいいが、ここは1年のうち300日を利用すると考える。
11年間では3,300日が稼働するから、上の総費用より1日当たりのコストを計算すると、1,394円=約1,400円となる*3。スタバのコーヒーならトールサイズで4杯、抹茶フラペチーノならトールサイズ3杯分か。

また、11年で77,000km走ると仮定しているから、1日当たりの平均走行距離に直すと、23.33km。1km当たりのコストは59.75円/km≒60円/kmである。

ちなみに、もしガソリン単価が200円に上がったとしても、それによって上昇するキロ当たりのコストは4.7円程度である(13.86km/L÷(200円/L−135円/L))。

都会の交通と比較すると?

例えばJRの幹線を利用して目的地を往復した場合、往復23.33km=片道11.67kmであるから、料金は11〜15kmの230円が適用されて、その2倍の460円が「都会のコスト」である。
これだけ見ると、確かに地方のコストは高いが、しかし、「ドアツードアでほぼシームレスに移動できる」「多くの荷物を楽に運ぶことができる」「5人程度までなら人数が増えてもかかる金額はほぼ同じ(仮に必ず4人乗車するのなら、1日一人当たりのコストは350円まで下がり、JRの運賃を逆転する)」「目的地が増えてもコストはほぼ変わらない(鉄道の場合、仮に3kmおきに8箇所の目的地があり=計24km、その都度降車すれば、初乗り140円×8回=1.120円である)」などのメリットを考えると、地方のコスト=1km60円というのは、案外安いのかもしれない。タクシー料金の約6分の1だし。

しかも、手放す際には買い取ってもらえる可能性がある。仮に10万円でも売れるのなら、それは10万円キャッシュバックされるのと同じである。鉄道でそんな制度があるのは、僕は「せたまる」ぐらいしか知らない。

もちろん、交通事故を起こすリスクや、高齢者など車を運転できない人をどうするかといった問題があり、当然ながら公共交通機関の発達した都会が、交通インフラという面では有利に決まっている。だがそれを差し引いても、地方の交通インフラだけでいえば「道路整備に励み、公共交通を圧迫し、そのサービスを劣化もしくは喪失した時、東京をはじめとする大都市との豊かさの差が真に大きくなることを知るであろう」「地方が衰退すると、日本という国の多様性が失われ、それは国益を大きく損ねる*4」と、この筆者がしたり顔でいうほど、実のところ大きな差ではないように思えるのだ。

そういう意味で、現状「公共交通を圧迫」してしまっているのは、上述のような計算から致し方ないのかもしれず、心に鉄分を持つ僕も、計算しなけりゃよかった…と、ちょっぴり寂しくなった、そんな一日なのでした。

まとめ

だいたい、人口密度が異なるんだから、別の交通手段が発達するのは当たり前だっつーの。都会の論理を地方に持ち込むなよ、ったく…。

*1:http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20090820_309691.html

*2:たぶん、こういうサービスがないと一度もオイルを交換しない人が一定数いるからじゃないかな

*3:もし、11年間毎日運転するならば、4,017〜4,018日≒4,000日であり、1日当たりのコストは1,150円まで落ちる

*4:これは交通インフラの問題だけじゃないよな、どう考えても