脱オタファッション?やめとけ。

世間、というか、オタ界隈では、常に脱オタファッションという議題がのぼるようだ。中にはご丁寧に脱ヲタファッションを指南する者までいる。
しかし、だ。
僕は声を大にして言いたい。
そんなのに耳を貸すのはやめとけ、と。
無駄だから。本当に無駄だから、と。

ファッションと所属、所属とファッション

なぜか。

例えば。

コック帽に前掛け姿の人がいるとして、あなたはその人とうち解けようと思うとき、いきなり「高層建築の基礎工事にける近年の技術革新について」とか「オシラサマ信仰の伝播に関する新知見」ましてや「サルモネラ属菌の分類法の変遷」なんて話を切りだすことはあるまい。もし、何か質問をするなら「おいしい料理の作り方」や「食材の選び方」であろう。なぜなら、服装から「この人は料理人だろう」と判断し、その判断に沿って質問するからである。

また、レストランで食事をしているとき、同じコック帽でも、ちっちゃなコック帽ではなく、ばかみたいにのっぽのコック帽を被っている人が前を通りがかったとき、あなたは「このまずい料理の責任者はお前かッ!」と詰め寄るだろう。帽子の高さで、下っ端か、料理長クラスかが判断できるからである。

あるいは。

アルマーニか何かのダブルのスーツに、サングラスとスキンヘッド、さらには金ピカのアクセサリをこれ見よがしに誇示している人が前を歩いてきたら、あなたは肩がぶつからないようにと避けるはずだ。その人物は高い確率で、頭文字にヤのつく職業であり、へたにぶつかったらどんな因縁をつけられるか、わかったものではないと判断するからである。

一方、もし、2文字目にクのつく職業、しかも「俺はカタギでも構わずケンカしちゃう男なんだぜ」なんていう人が、ぼさぼさの黒髪に、チェック柄のボタンダウンシャツ、ケミカルウォッシュのジーンズとノーブランドのスニーカーで歩いていたら、迷惑きわまりない話である。油断してうっかり肩でもぶつけようものなら、あなたは公園あたりで「すごく…いたいです…」とつぶやく羽目になるからだ。

さらには、一般人が3文字目にザのつく職業の人っぽいファッションで歩くのも危険な行為と言えよう。特に繁華街などを練り歩けば、これまた非常に高い確率で突然肩を掴まれたと思ったらどっかのマンションの一室や潰れたスナックの地下あたりに連れ込まれて「おいテメェ見かけない顔だな……ハッそうか関東進出を狙っていると噂の伊集院一家の尖兵だなそうだそうに違いないいや間違いなくそうだよしならばその野望をくじいてやるぞおい鮫島!松永!こいつを痛めつけてやれッ!」などと、往年の東映か劇画誌でしか見ないような、レアな恫喝を頂戴するという光栄をさずかるに違いない。


つまり。

ファッションとは、その人がどんな所属・階級かを大まかに表してくれる、大事な標識なのである。だからこそ、自分の所属や階級に合った服を着るのは、自分のためであり、周囲のためでもある。いわば、社会のルールなのだ。

オタクという階級

さて、オタクである。オタク、中でもアニメとか同人誌とかゲームとかそのあたりに対して特殊なセンサーを働かせることのできるオタクは、男性も女性もおおむね、何というか「ああ、この人はアニメとか同人誌とかゲームとか、そういうのを愛好している方に違いない」というファッションセンスをそこそこ共有している。

言い換えれば、アニメとか同人誌とかゲームとか、そういうのを愛好しているオタクは、そのカテゴリならではのファッションセンスを共有しており、それゆえに、外見だけでも「この人はオタクに違いない」と世間から認識されることを示している。

これは、オタクという階級が作り上げた特権である。何しろ、自己紹介するまでもなく、「この人はオタクだろう」と判断してもらえ、それに伴う話題を振ってもらえるのだから。

考えてもみてほしい。もしそういう判断をされなかったら、あるいは別の階級と誤認されたなら、あなたは何だかよくわからないファッションブランドの新作の話やら、B系カルチャーの動向やらの話題を振られかねないのだ。

困らない? 僕は困るよ。

だから、オタクという階級を示すためにも、オタ系ファッションは欠かせないし、脱オタファッションなどは愚の骨頂なのだ。

オタクとモテ

さらに、モテという意味で言っても、えらく有利なことである。

なぜなら、オタクにはそれなりに女性・男性からの需要があり、誤解を恐れずに言えば、モテるからだ。

考えてもみてほしい。成人を越えた人であれば、まわりに1人は「ドおたくだけどモテモテ」あるいは「ドおたくだけどかわいい妻やかっちょいい夫がいる」という、け、けけけっ、けっけしからん輩がいるはずだ。アキバあたりでも「なななんでこンな見るからにフルスピードでオタまっしぐらのカルカン野郎にムチムチボインのか〜わいこチャンが腕を組んでるンだッ!」と驚嘆したことはないか?あるだろう?

そうなのだ。デブ専フケ専メンナク専の女の子がいるのと同様、「オタクの、何かに熱中する姿が好き」「趣味と同様、私を、僕を一途に愛してくれる」「実は私も、僕もオタク趣味を持っているからオタク同士で気が合いそう」「私のオタク趣味も許容してくれるかな?かな?」などなどの理由から、オタ専の女の子・男の子は存在するのだ。しかも、結構たくさん。

もちろん、そのカルカン野郎には、見た目ではわからない、いろんなプラスのポイントがあるのかもしれない。例えば金持ち。例えば自分に厳しく人に優しい。例えばケンカ十段…などなど。

しかし少なくとも、オタファッションだからって、それがモテ非モテを決定づける決定的な差ではないということは、確実に言えるのだ。

誰にモテたいの?

もう一つの理由。

ここからはオタ男に絞って書くが、では、例えばオタ男がヤングエグゼクティブのようなファッションを身にまとい、それでモテたとして、いったいどうするのだろうか、と。

考えてもみてほしい。そんなファッションの男に寄ってくるのは、ヤングエグゼクティブ好きな女性である。
偏見に満ちた文言でもっと言えば、オタクが蛇蝎のように嫌うスイーツ(笑)である。ロハスな生活(笑)とか青山の隠れ家スイーツ(笑)とかエステ(笑)とか自分にごほうび(笑)とか合コン(笑)とか「え〜っ、○○ちゃんってこんなにかわいいのに何で彼氏いないの〜」(笑)とかセックス特集(笑)とかで頭が満たされている、と(一部の)オタが思っている女と、いったい何を話すのだというのか。

同様に、無難とやらの服を着れば、何とも無難好きな女性に好かれる、かもしれない。
これも偏見に充ち満ちた言葉で綴るならば、月9ドラマは録画してでも必ず見ています、とかタイタニックでウルウルしたよ、とかやっぱり夫にするなら安定している地方公務員よね、とか年に一度はディズニーランドへ行きたいな、とか、おおかたはそんな無難な女の子なわけだけど。

オタ趣味の話なんてできないよ。

コレクションが捨てられるかもよ。

それでいいの?

違うんじゃね?

オタ男にぴったりしっくりくるのは、レクサスでもベンツEクラスでも、あるいはデミオでもヴィッツでもなくて、むしろ走る・曲がらない・止まらないの三拍子そろったGTOのような、ピーキーな彼女−−オタである自分を認め、受け入れてくれる、オタ好きの女の子じゃないだろうか。

せっかく、オタク好きな女性がいて、オタク階級のファッションがあって、それによって識別してくれるのに、なぜ脱オタファッションなんぞでオタク好き女性を振り切る必要があるのだろう、と。

繰り返す。オタファッションであることに問題はない。むしろ積極的に、オタファッションに身を包み、オタ好きの女の子、男の子にサインを出すべきなのだ。

オタファッションがアレな理由

前言を翻すようだが、確かに、「オタファッションはダサい、モテない」という印象がある。嫌悪さえ覚える人もいる。

でも、違う。それはオタファッションのせいじゃあ、ない。
オタファッションに身を包んでいるオタが嫌悪されているだけなんだ。
そして、嫌悪されているのは、オタだからではない。オタが悪さをしているからなんだ。

悪さとは?

一つは、臭いこと。

なあ、風呂に入ろうぜ。オタの臭さ、何だあれは。コミケの時期、夕方過ぎの埼京線には乗りたくないんだ。本当に乗りたくない。あまりに臭すぎて吐き気がするからだ。特に夏はひどい。バイオテロなのか? ケミカルテロなのか? マジで勘弁してくれ。

もう一つは、公共道徳を守らないこと。

頼むから、頼むから公共の場で、大声でエロゲやエロ同人誌の話をするのはやめてくれ。嬉々としてアノときの二次元嫁の反応を語らないでくれ。完全なセクハラだ。そんなにエロゲの話をしたければ家でやればいいじゃないか。チャットでやれチャットで。どうせ家に帰ってもメールかメッセンジャーskypeでいくらでも話せるだろ?

オタファッションそのものが嫌いな人間だってもちろんいるだろう。だが、ファッションならば、目を逸らすだけで済むから、実害はさほどない。ところが、臭いのは避けようがない。鼻をつまむわけにはいかないからだ。もちろんエロゲ話もだ。まわりの人たちに耳をふさげとでもいうのか?

そして、テロかと思うぐらいに臭くて、公共の場でエロゲの話をするような奴がたまたまオタファッションだから、オタファッションが嫌われているだけなのだ。

話は少し変わるが、見たことがないだろうか?そして、あきれたことはないだろうか?社員章をこれ見よがしに付けているというのに、足をおっ広げてふんぞり返って席を独占しているサラリーマンを。下品なダジャレと下ネタでゲヒゲヒと下品に笑う、同じ会社らしき集団を。

上記のような輩はアホウである。自分がその会社なり組織なりの代表として見られている、ということに思い至らず、不特定多数に向けて会社の価値を下げるようなことをしているのだから。正直、クビになっても文句は言えないだろう。

これはオタも同じなのだ。臭いオタand/or大声でエロゲの話をするオタは、自分がオタ全体の地位を貶めているということに、もっと自覚的であるべきだ。それで「オタはモテない」って、アホか、もう!

よんどころない事情を抱えているならともかくとして、改善できるというのに臭いや下ネタをまき散らすオタは、ファッションセンスがないんじゃあない。公共のマナーのセンスがないのである。

オタファッションの人間がすべきこと

言い換えよう。

オタはオタの感性そのままのファッションで問題ない。ただし、ファッションでなく、マナー−−、きちんと風呂に入り、公共の場でエロゲの話をしなければ、オタファッションに嫌悪感を抱かれることは少なくなる。

さらに、だ。

オタファッションの人間が率先して高齢者や妊婦さんに席を譲る。
信号のない横断歩道で立ち往生している人に代わって車を止めてあげる。

そんなマナーあふれる行動を、オタが心がけていれば、どうなるか。

そうしたら、ただでさえ(それなりに)モテるオタ階級がもっともっとモテるようになって、これまでは「本当はオタ好きだけど行動できなくって……」と胸を焦がしている隠れオタ好きの女の子や男の子も「ああ、オタって優しいんだな」「素敵だな」「惚れる」「濡れる」「もう結婚して!!」と相成って、ウヒヒゲハハのヘヴン状態間違いなし。これぞWIN-WINの関係(notバイブの音)ではないだろうか?

オタよ、自分の感性やファッションセンスを信じよう。
そして、公共のマナーを守り、小さなことからこつこつと、オタとして社会貢献を果たそうじゃあないか。

そうすれば、オタファッションはモテ服へと様変わりするのだから。


オタが磨くべきは、ファッションセンスではなく、オタ道と公共マナーであり、
オタが脱すべきは、オタファッションではなく、脱オタファッションなのだ。